男性育休推進の成功要因は「必須化・啓発・みんなで育てる」。実質100%取得の秘訣に迫る
“育児・家事は、女性だけの問題じゃない。”
イクメンという言葉を多く聞くようになった今でも、2016年度の男性の育休取得率はたった3.16%(厚生労働省発表)。そんな中、男性育休(妻出産休暇)取得率が実質100%の企業があります。株式会社リクルートコミュニケーションズです。
男性が育児・家事に参加することで、女性の社会復帰および活躍推進につながり、ひいてはダイバーシティの実現につながると考え、男性育休の「必須化」に踏み切ったといいます。
育休を必須化というと、「業務に影響が出る」など、現場からのネガティブな意見が出そうで、思い切った施策のように思えます。どうやって制度を軌道に乗せたのか、リクルートコミュニケーションズ流制度の運用方法について、お話を伺いました。
男性育休の取得率、実質100%!その全貌とは
男性育休とはそもそもどんな制度なのでしょうか。今回お話を伺ったのは、株式会社リクルートコミュニケーションズ ダイバーシティ&インクルージョン推進部の原野美香さん。男性育休の制度概要は以下の通りです。
制度概要:
①子の出産時の特別休暇を最大20日間付与(そのうち5日間の取得を必須化)
②取得可能期間は、子が満1歳になる月の末日まで
③対象は、社員、専門社員、契約社員
④無理なく取得できるよう、1日単位で取得可能
5日間の育休取得は「必須」です。その狙いは、父親に子どもがいる生活の楽しさや大変さを実感してもらうこと。その経験は働き方にも良い影響をもたらすと氏は語ります。
取得可能期間を定めたことで、本人やその上司が「育休取得」を意識するよう工夫されています。家族で過ごす時間が増えることで、「子どもをどう育てるか、今後どうやって生活をしていくか。妻とゆっくり会話ができた」と制度に感謝する声もありました。
原野:2016年4月に育休制度をスタートして以降、育休取得対象者は46名になります。そのうち43名が1日以上の育休取得をされています。残り3名の方は、まだ お子さまが1歳の誕生日を迎えていないため、取得期間の締め切りを迎えていないんです。
すでにお子さまが1歳を超え、取得期限を迎えた12名は、100%5日以上育休を取得しています。
実質100%*の取得率を誇る、同社の男性育休制度。実施された方からは、「取得して良かった」と、ポジティブな声が多く挙がっているのです。
*2017年9月時点において
男性育休取得者「育児の喜びも大変さも知っている。だからこそ、感動も倍なんですよね」
※写真はイメージです。リクルートコミュニケーションズとは関係ありません。
育休を取得し、育児に参加することで、男性にどんな影響をもたらすのでしょうか。実際に取得した方の声をご紹介します。
娘と24時間いっしょにいる妻の方が大変だと思うけど、僕は父親として、そんな苦労もできるだけ共有しながら、子どもの成長をまるごと全部、見守っていきたい。そっちの方が感動も倍だろうし、なんか悔しいんですよね。
「ママ、ママ」だけじゃなくて、「パパ、パパ」って僕は呼んで欲しい。
5日間必須の育休に、僕は賛成ですね。会社がせっかく奨励しているのだから、みんなにも積極的に育児の感動を味わって欲しいです。
30代男性 2016年4月の制度開始にともない、5日間の休暇を取得
父親として子育てに参加できないことは「悔しい」し、子育ての喜びも大変さも、妻と共有しながらまるごと全部見守りたい。原野氏いわく、育休によって、育児の時間を家族で過ごしたからこそ、「今後もしっかりと育児に関わっていこう」と改めて意識した方が多いとのことです。
この声は、『PAPADIGM SHIFT(パパダイムシフト)』という、社内広報用の小冊子に掲載されていたものです。この小冊子には、育休を取得したお父さんたち10名の声がまとめられています。
また、育休を経験した方は、育児関与のためにも、働き方の姿勢を考えるようになったといいます。
原野:お子さんが生まれ、男性が育休をとって家事や育児を分担することにより、ワークライフバランスの改善にも繋がっているんです。
父親が育休を経験することにより、ワーキングマザーへの理解が深まったり、効率的な働き方を意識し早く帰宅する癖を身に付けたりと、育児への興味だけでなく、働き方への良い影響も見込めることがわかりました。
制度自体の良さは分かったものの、肝心なのは制度の普及方法。新しい制度を導入するときは、現場との軋轢が気になり、運用方法に悩む人が多いのではないでしょうか。特に、男性育休のように、業務に直接関わる制度は声を大にするのも気が引けてしまいそう……。では、実際はどうやって推進したのか、お話をきいてみましょう。
推進の秘訣は「必須化・啓発・みんなで育てる」
男性育休は、育休を取得する方はもちろん、奥様と職場のみんなが幸せになれる「幸せのサイクル」が広がる形になることがわかりました。ですが、最初に制度を導入したとき、現場からネガティブな意見は出なかったのでしょうか。気になる制度の推進の秘訣を聞きました。
原野:男性育休は、「必須」という形で推進したからこそ浸透したんだと思います。育休取得の権利が発生した段階で、「おめでとう! 業務調整はどうする? 育休はいつ取得する?」とコミュニケーションが生まれるんです。祝福ムードで、すぐに業務調整に入ることができています。
原野氏は、制度を推進する上で、以下の2つのことを意識されていました。
【制度を推進する上で2つの大切なこと】
①制度の「必須化」
②継続的な「啓発活動」をすること
まず、制度を「必須化」すること。育休をとることが職場にとっての当たり前になることが重要です。
2つ目は継続的な「啓発活動」をすること。お子さんが生まれたときは『PAPADIGM SHIFT』によって育休の使い方を訴求し、全従業員には隔週で配信されている社内向けメルマガにて育休取得例を配信。権利の期限が迫っている場合は、その方の上長に「業務のサポートをしてあげて欲しい」と連絡を入れるなど、常に情報を発信し続けます。
そして、トップが本制度の推進に前向きであることを伝えることも後押しになります。同社代表取締役の清水淳氏は、過去に子の誕生時に1ヶ月の休暇を取得したことがあり、”育児・家事の喜びや負担を実感し、理解が深まった”(プレスリリースより引用)とコメントを発表したのです。社員の中には、「育休を取得したいけど周りに迷惑をかけるかもしれない」「自分の仕事がなくなるんじゃないか」と悩む方もいるでしょう。代表取締役のコメントは、悩める社員にとって多大な安心感を与えました。
このように育休取得の啓発活動をすることも、取得率100%につながった要因の1つなのです。
リクルートコミュニケーションズ流制度の立て方
※写真はイメージです。リクルートコミュニケーションズとは関係ありません。
制度の実施から運用を軌道に乗せるまで、1年半という早いスピードで達成した同社の育休制度。そのスピード感の秘訣は、制度スタート後もみんなで育てていくということでした。
原野:制度は作れば良いといものではありません。スタートして運用し、周りの意見を取り入れながら、適切な方向に進めていくんです。
利用者の声を聞きながら、制度そのものを修正していく。そうすることで、さまざまな需要に応えられるよう、細かい調整ができるのです。
今回の育休制度も、運用する前には思いもよらなかった使われ方をしました。
原野:導入したばかりの頃は、生まれたばかりの子供のお世話や検診など、必要性が生じたタイミングで育休を取得されるのかなと想定していたのですが、蓋を開けてみたらそれだけではなく実に多様な使い方がありました。奥様の家事の手伝いのため、育児の負担から解放してあげるために取得される方も多くいるのです。そのほかに、家族全員でテーマパークデビューをした、という声も聞いています。
実際に取得されるのは男性ですが、取得された当人だけでなく、奥様やご家族の皆さんも喜ばれる制度なんだなと思いました。
制度の活用の仕方が多様にあることからも分かるように、子育ての方法は人の数だけ存在します。その家族にあった育休のタイミングを選べることが、利用の推進につながったのではないでしょうか。最初から制度をガチガチに固めていては、柔軟な対応はできません。現場の方が少しずつ、制度をよりよくしていく姿勢があるからこそ、制度は生きてくるのです。
成功要因は「必須化・啓発・みんなで育てる」
男性育休の制度を実現されている株式会社リクルートコミュニケーションズ。同社が制度を成功させている要因は、以下の3つだと分析できます。
【「男性育休」の3つの成功要因】
①制度を必須化することで、取得することが当たり前の空気をつくること
②権利取得者を含めた会社全体にあらゆる方法で啓発し続けること
③全員で制度を育てていくこと
世の中の父親の中には、育児に参加したくとも、会社の仕組みからそれがしにくいと悩む人もいるでしょう。個人でどれだけ奮闘しても、休める日数や、できる仕事には限りが出てきてしまいます。だからこそ、会社の育児休暇のサポートが必要になってくるのです。
今回ご紹介した「男性育休必須化」は、さまざまなライフスタイルを求める社員が活動的に働くための助けとなっています。それだけでなく、優秀な人材の採用・定着にも繋がることでしょう。多様化した顧客ニーズへの対応力を求められる今の時代、制度や社内環境を整えることは、企業の存続における重要な施策と言えるのです。
そのため、総務担当者には、ダイバーシティの実現に向けて、今後たくさんの取り組みの実施を求められることでしょう。そのときは、今回の成功要因を踏まえ、会社全体を巻き込みながら進めていくことをおすすめします。