カイジ全巻買いもOK!?性善説で社内制度を作るアナグラム株式会社に行ってきた
従業員に少しでも快適に、モチベーションを高く働いてもらうために、社内制度や福利厚生を整えようと試みる会社は少なくありません。しかし、ユニークな社内制度を作ることに気を取られ、本来の目的が見失われていることもあるのではないでしょうか。
本当に社員に愛される社内制度を作るために、企業は「その制度が本当に社員のためになるかどうか」だけでなく「その制度によって社員にどうして欲しいのか」まで考える必要があります。
今回の取材先は、積極的に新しい社内制度を導入するだけでなく、柔軟に運用を行い、導入後の効果測定から廃止・変更にまで力を入れているアナグラム株式会社。創業時から自ら中心となって制度を作り、運用してきた創業者兼代表取締役の阿部圭司さんと、今後の社内制度作りを引き継ぐ人事部の高梨和歌子さんにお話を伺いました。
アナグラム株式会社ってどんな会社?
アナグラム株式会社は、「必要な人と与えたい人を”繋げる”、人と人を繋げる」ことをミッションとしたリスティング広告やFacebook広告などを筆頭とする運用型広告の運用・コンサルティングを専門に手がける広告代理店です。
同社は働きやすい環境を作るために社内で様々な取り組みを行っており、社内制度と福利厚生に魅力を感じて応募してくる人も少なくないそう。
社内制度の中には、配偶者や彼氏彼女の誕生日に休みが取得できる「パートナーバースデイ休暇」や、営業時間内に社員全員が参加する勉強会「グロースハック」などのユニークな取り組みがあります。
社内制度がどのように作られ、どのように運用されているのかを実際に探ってみました!
会社のせいでできないっていうのは嫌なんです — 選択肢を与えるための社内制度作りとは
―御社にはさまざまな社内制度がありますが、こうした制度の発案と運用はどなたがされているのでしょうか?
阿部:今までは基本的に僕ですね。もちろん女性向けの制度は女性社員に意見を聞きますし、社員にはどんな意見でもウェルカムだと伝えていますが、ある程度は創業者である僕が権力行使しています(笑)
―社内制度を作る上で心がけていることはありますか?
阿部:大切にしている考え方は、その制度が誰のために、なぜあるのかってことですね。社内の公募では「会社からお金が出るチーム飲みの予算を上限7,000円から10,000円へ上げて欲しい!」といった案があがることがあるのですが、誰のためのものか分からなければ制度化しません。裏を返せば、誰のために、なぜあるのかをきちんと考えられていて、社員にとってポジティブに働くものであれば、Noって言うことはほとんどないです。
もう一つ心がけているのは、社員全員に選択肢を持ってもらうということです。
例えば、僕には土曜日に旅行や温泉行くという発想がないんです。だって土曜日に行くと渋滞に巻き込まれるし、平日よりも確実に割高じゃないですか。僕らの仕事はお客さんの広告を効率化、及び最大化すること。“効率化”という観点から旅行や温泉に行くことを考えると、平日に行くのが正解なんですよね。
旅館やホテルの経営視点から考えれば至極当然で、週末は平日と比較して需要が増える分、渋滞も起きるし、価格も1.5倍から2倍に高騰する。だから僕は平日に休みをとって行きたいと思いますし、社内のみんなにもそういう選択肢は持っていてほしいと常々思っています。
月末の金曜日は有給休暇を取得しているメンバーが多いんですが、何割かは弊社が加入している「関東ITソフトウェア健康保険組合(ITS健保)」を利用して旅行に行っていますね。
ITS健保を簡単に説明すると、保険料が安く抑えられ、病気やケガをしたときや出産時などの付加給付金があり、激安で満足度の高い保養施設や宿泊施設を利用したり、最高のお寿司を食べれてしまうという、”とんでも”な健康保険なんです。加入しないなんて意味がわからないほどの保険で、健康保険関連では最強説があるほど。※
とはいえ、家族の事情でそうもいかない場合もありますから、決して強制はしません。ただ、会社の古いルールのせいでできないっていうのだけは嫌なので、全員に選択肢を持っていて欲しいです。
例えば、アナグラムではここ数年、短時間労働制の導入を検討しています。まだ実現できていないので断言はできないのですけど、誰にだって「今日は早く帰れそう!」っていう日が月に2、3回くらいはありますよね。その時に「帰る」という選択肢を社員が持てることがすごく大事。このように、社員に選択肢を与えていくことが会社の役目だと思いますね。
※出典:『これまでに導入して明らかに成果を上げた5つの社内での取り組み』
従業員を疑うより信じたほうが早い — 性善説から生まれる社内制度
―社内制度は便利な一方で、利用する社員のモラルによっては悪い影響を及ぼすこともあると思います。健全に運用するために何か心がけていることはありますか?
阿部:基本的に社内制度は性善説で作っています。例えば書籍無料購入の制度では、僕や総務への事前承認は必要なく、購入した領収証を月に一度提出するだけで翌月経費精算されるように仕組み化しました。
―社員がこっそり仕事に関係ない本を買うといった、ネガティブな影響はないのですか?
阿部:世の中の組織の仕組みって基本は性悪説でできていて、人が悪いことをする前提で設計されていると思うんです。でも、うちは逆で、性善説で社内制度を作ります。昔は書籍を購入するときに事前承認を求めていたのですが、僕に『今更この本を読むの?』と思われるかもしれない、となんとなく活用しづらい雰囲気があった。なので、気兼ねなく書籍が買えるような仕組みにしようと事前承認を取りやめました。今では、社内の大半が書籍無料購入の制度を活用してくれるようになったので、疑うより信じた方がいいというのが僕の考えです。
それに、カイジを全巻とか買われたっていいじゃないですか。カイジを読んでいる人は、読んでいない人よりマーケターとして面白いと思いますよ(笑)
導入するときも廃止するときも、一番考えるのはネガティブな側面
―御社の社内制度で廃止したものはありますか?
阿部:ランチ手当ですね。「社内コミュニケーション活性化のため必ず2人以上で行く」という条件付きで、毎日1,000円をランチ手当として支給する制度だったのですが、3年くらい経って廃止してしまいました。
―3年も続いたものをやめたのは、どうしてでしょうか?
阿部:きっかけは「2人以上で行く」という条件がネガティブに働き始めたことですね。二日酔いとか体調悪い時であっても、誰かと無理してご飯に行かないと1,000円もらえないみたいな状況になってしまって。制度が義務のようなものになってしまったんですね。
そんな風に制度がネガティブな方向に働き出しているのに気が付いたので、やめることにしました。
―制度のネガティブな側面に目を向けることが重要なのですね。廃止にあたって社内での反発はなかったのですか?
阿部:ありましたよ。1日1,000円支給しているので、廃止すると月に2万円、年に24万円程度収入が下がることになる。そうすると、どうしても反発が起きます。だから、僕は当時話題になっていたサイバーエージェントさんの「2駅ルール」を見習って、住宅手当に切り替えて一律で月に2万円を支給することにしたんです。
―制度を廃止する代わりに、別の制度を作ったのですね。
阿部:そうですね。今の話の続きでいうと、住宅手当も固定費化してしまったので昨年やめたのですが、代わりに社員の基本給を上げました。導入するときも廃止するときも、基本的に何かを変えるときは、変えたことによって起こるポジティブな面だけではなく、ネガティブな面をより考えるようにしています。
効果測定のパラメーターは肌感と数値
―制度の廃止や変更を積極的にされているようですが、社内制度の効果測定はどのようにされているのでしょうか?
阿部:まだ見れる範囲なので、基本的には肌感覚ですね。あと、数値が分かるものは数値で見るようにしています。例えば、書籍無料購入の制度であれば「1ヶ月の間に各社員が何割利用し、何冊購入しているか」、就業時間や休暇に関する制度については、「利用率や残業時間」とか。肌感覚と数値を両方照らし合わせて、試行錯誤しながら制度を運用していますね。
―高梨さんは、実際に働く中で社内制度が充実しているという実感を持っていますか?
高梨:はい。人目線で制度を考えられているなと思います。世の中には、上の人が生み出したものの現場目線ではなくて使われない制度が結構あると思うのですが、アナグラムの制度はいずれも、存在意義があるなと。阿部さんが独断と偏見で選出している部分もあると思いますが(笑)
阿部:それはありますね(笑)
―最後に、今後制度作りを引き継ぐにあたっての意気込みを教えてください。
高梨:運用型広告の代行をメインとした代理店業は「人」が命なので、社員側から見た時に健康で文化的な、働きやすい環境を整えていきたいです。「制度がないことで何かが妨げられる」ということがないよう現場の意見も聞きつつ、全体を見ていきたいと思っています。
これからの話しをすると、例えば、弊社は女性社員が10人ほどいますが、小さいお子さんがいるとか、入社してからお子さんが生まれた社員がまだいないんです。ただ、今後数年以内に制度が必要になるタイミングが出て来るので、お子さんがいる母親が働きやすいと感じる制度も作っていけたらと思っています。もちろん、女性だけじゃなくて男性社員の育休制度なんかも整えていきたいですね。頑張ります!
アナグラムの制度作りの成功のコツとは
社内制度作りと運用を上手く進めるために、取材から導き出されたコツは以下の4点でした。
制度を作る前は、
・その社内制度によって社員にどうして欲しいかを明確化する
制度を作る時は、
・性善説で社員を信じる
制度を変えるときは
・ポジティブな面だけではなく、ネガティブな面を一番に考える
制度の効果測定は、
・肌感と数値をパラメーターにする
社内制度は、作るだけでは意味がありません。作ったものを運用し、社員に使われて、その後どうなったのかまでのPDCAサイクルを回して検証を行い初めて意味のあるものになります。
社内制度を作るときは、「なぜその制度を作るのか」だけではなく、「作った後にどう運用するのか」「作ったことによって何がどう変わるのか」まで考えてみてはいかがでしょう。
アナグラムの社内制度一覧
■関東ITソフトウェア健康保険組合への加入
記事でもエピソードを紹介していますが、阿部さんと社労士が1年間かけてやっと加入。
■ベビーシッター制度
2ヶ月に一度、会社がベビーシッター代を負担するので、夫婦で気兼ねなくデートをしてきて下さいという制度。
■産休制度(今のところ男性社員のみ適用されてます)
パートナーの出産予定日の前後5日間は在宅ワークを許可。
■18時以降事務所の電話を留守電に
電話の留守電にとどまらず、メールもチャットも含めて「18時以降の問い合わせは緊急な用事以外返信する必要なし!」と決めたそうです。これよる顧客満足度の低下や解約などの影響は一切なかったと言います。
■掃除を外注にした
「ITに来たのに掃除なんてしたくない」ですよね?この思想のもと、目黒区シルバー人材センターに事務所の掃除すべてを委託しているとのこと。週に2回、トイレから棚の汚れまで、すっかり綺麗にしてくれるようです。
■バースデイ休暇、パートナーバースデイ休暇、お子さんバースデイ休暇
パートナーには、彼女と彼氏も含まれるそうで、パートナーが二人いる人は年に2回取ることが可能(笑) 実際に、夏に取って冬にも取った社員がいるそうで、年内にパートナーが変わった場合は2回目の取得もOKだそうです。
■グロースハック
毎週木曜日の営業時間内に行われる社内での勉強と共有の場です。
■TGIF
Googleも導入しているTGIFは、”Thank God, it’s Friday!”(ありがとう神様.今日は金曜日だぜベイビー)の略称。不定期で金曜日の17時頃から行われるフリータイムを指し、お菓子やお酒などを会社で振る舞い、コミュニケーション活性化の場として設けています。新入社員の自己紹介などもここで行われるそう。
■在宅ワークの許容
基本的にリモートワークは推奨しないアナグラムですが、家族の問題やこどもの発熱や急病などのきちんとした理由さえあればリモートワークを許可する制度です。
■生理休暇
周りの男性陣に知られずに、こっそり総務の女性に伝えることで月に一回休むことができる制度。 高梨さんによると「辛い時ってありますよね。なので、そういう時に休んでも大丈夫っていう選択肢があるのはすごく助かると女性一同からは賛同の声が上がっています」とのことでした。
■チーム飲みの費用負担(上限7,000円)
月に一回7,000円までの補助金がでる制度です。「毎月上限ギリギリを狙って」お店決めをしているチームもあるそうです。
■個人の宅配便を社内宛に
貴重な休日の午前中に宅配便を家で待つということが減ったそう。高梨さんが、「最近地味に嬉しい制度」の一つとして挙げていました。
■リーダー以上に住宅手当てとして、家賃の半額を負担(上限10万円)
導入当初、なかなか高額の申請をした社員がいたことで、急遽10万円までという上限を設けた制度。阿部さんによると、「上限というルールを決めてなかった会社が悪いので許容した」とのこと。
■書籍購入、セミナー・ワークショップへの参加が無料
社内での利用率が最も高い制度。誰がどれくらいの頻度で書籍を買っているかを見ていて、毎月本を買っている人は実際に仕事の成績も伸びるという事がわかったそうです。
■評価制度
社内初の制度だった「ランチ手当」、そしてその後の「住宅手当」を経てたどり着いた制度。2017年の4月から導入され、何をすれば評価され、どうすれば給料が上がるのかが100%可視化されています。