河原はアイデアの宝庫? デイリーポータルZの“河原会議”を見学してきた
いつも思わず笑ってしまうコンテンツを提供しているデイリーポータルZ。最近では「両手にソフトクリームを持って森に入ると不安になる」とか「路面標示つき『道路マフラー』を作ってみた」など、愉快な気分にさせてくれるコンテンツを世に送り出しています。
そんな同編集部ですが、なんと会議を“河原”で行っているそうです。かつて石で水切りを行ったり、綺麗な形の石を探したりした、あの河原です。「そんなところで会議を行う編集部は見たことない!」ということで、デイリーポータルZの会議を見学してみることにしました。
デイリーポータルZの“河原会議”
春の穏やかな気候が気持ちいい3月某日、天気は快晴。デイリーポータルZ編集部のある二子玉川にやってきました。二子玉川というとセレブな街として有名。そんな人気のエリアの一角に、同サイトを運営するイッツ・コミュニケーションズ株式会社が入居するオフィスビルはありました。
ビルの1階で待ち合わせということで、1階エレベーター前で待っていると、編集部員がぞろぞろとエレベーターから降りてきました。皆、ノートパソコンを片手に持っているので、
「これからどこに向かうんですか?」
と聞いてみると、
「え、ここから近くのところにある河原に向かうんですよ」
と、あまりにも当たり前のように回答。かくして、一行は河原に向かいます。
場所は、オフィスビルから徒歩5分程度にある多摩川の河川敷。
そばに架かる橋を、東急田園都市線が神奈川方面に走っています。
編集部員は、編集長の林雄司さんを含めて合計6名。1週間のうち、火曜日は編集部全員が集まるため、河原で会議を実施しているそうです。そのほかの日は、二子玉川のオフィスや東急電鉄が運営しているシェアオフィス『NewWork』などで働いているとのこと。
会議を始める前に、まずは自分たちが座る“石”を探します。全員ノートパソコンを構え、いざ会議開始です。青空の下での会議なので、ポケットWi-Fiは欠かせません。
川辺にいるカップル。
今日の会議の議題は「1分動画」のネタのブレスト。さっそくブレストの開始です。
“石”に着席するや否や、動画企画のブレストが始まりました。
「前衛的なジェスチャークイズなんかどうですか?」
「舞踏をするのも良いかも。私、昔やってたことがありますよ。お題は『改札に引っかかる人』でしたかね……」
「それコントじゃないですか!」
「ヒヤヒヤするビデオなんかいいですよね。不器用な人が何かをやる、とか、取り返しのつかないことをする、みたいな」
「レビューされなさそうな商品のレビューというのはいかがでしょうか?」
「誰かがずっとはしゃいでいる動画もいいですね」
「昔、走りながら落語をする、なんていう動画もやってたね。その派生系も良いかもしれない」
とにかく参加者から出てくるアイデアの量が凄まじく、会議のテンポが早い! 会話の内容がどんどん脱線していくのですが、その脱線が面白いほうに脱線していくので、参加者全員が熱狂していきました。
もちろん企画アイデアだけを話すのではなく、ページビューなどメディア運営全般に渡る話も議題に。検索流入の現状など、河原では到底話題にはならないようなことまでも議論していました。
この日は気温が高くポカポカしており、風もなく穏やかな天気でした。開放感があり、これならブレストもずんずん進みます。
最後にデイリーポータルZが主催するイベントの集客状況などの連絡事項を共有して、会議は終了。終始和気あいあいとしつつも、いたって真剣に会議をしていました。
アイデア発想のきっかけは「ノイズ」
林編集長は、河原会議の間、会議に参加しつつも、時折川辺を眺めていました。何を見ているのか聞いてみると、遠くに飛んでいた鳥を眺めていたそうです。
なぜ水面の鳥を眺めていたのかを聞いてみました。
林雄司編集長(以下・林さん):「アイデアを出すときには、『ノイズ』がきっかけになることが多いんですよ。今は鳥を眺めていました(笑) アイデア出しに困っているときは、何かノイズとなるようなものを見ると良いですよ」
室内の会議室には、当然ながら小鳥が飛んでくることはありません。対して、河原には小鳥もいれば、カップルもいれば、何の仕事をしているのかわからないおじさんもいます。
林さん:「うちの編集部は、以前は大森(大田区)にあったのですが、そのときはメンバーの評価面談も外でやっていました(笑) 閉鎖された会議室で面談をすると、暗い気分になってしまうじゃないですか。だから、外でやっていたのです」
うーむ、評価面談まで外でやるというのは、もはや会社の域を超えていますね。
インプットが先かアウトプットが先か
せっかくなのでいろいろ質問をしてみました。アイデアを出す際、まずは知識のインプットをしたほうが良いのか、それともいきなりアウトプットしてしまったほうが良いのか――アイデア出しをすることが多い職種の方は疑問に思っているのではないでしょうか? 順当に行くと知識がたくさんあったほうがブレストに向くような気がしますが、果たして実際のところどうなのでしょう?
林さん:「まずはやってみる、というスタンスですね。なので、とりあえずアウトプットが先と言えます」
ほかの編集部メンバーにも聞いてみましたが、基本的にはアウトプットが先、だということです。あるメンバーは、「私たちの編集部には、特定のジャンルを深掘りしている人が多いのかもしれません。ある意味、『インプットしている分野が偏っている』と言えます」と話していました。特定の興味に関して深掘りができていると、アイデア発想のスタイルが確立しているので、それを応用して未知のジャンルでもブレストができるのではないか、とも分析しています。
「そんなこと言われても、なかなかアイデアが出てこないよ……」と嘆いている皆様。林編集長いわく、「その時の感情をそのまま紙に書いていくと良いですよ」とのこと。具体的には「あーなんで今アイデアが出ないんだろう……昨日はアイデアがたくさん出たのになあ……」みたいな感じで、思った言葉を話し言葉風にメモしていくと良いそうです。そのメモがトリガーになり、突然降って湧いたようにアイデアが生まれるのだとか。
ブレストは「雑談」
さらに林さんはブレストについて、「一人で考えるのには限界がある」と話していました。林さん自身、普段は会社ではなく、シェアオフィスなどで仕事をしているといいます。会社にはなぜ来るのかというと、「雑談するために(会社に)来ていますね」と笑って答えていました。
林さん:「特に用事はないライターが来られる環境を作って何気なく雑談をしています。そういったちょっとした雑談から、良質なアイデアが生まれることもあるんです。10個のアイデアがあったら9個のアイデアがダメだとしても、1個の光るアイデアがあればそれでよし、という気持ちでやっています」
アイデアを考える時、どうしてもノートに向かってウンウン唸りながら考えてしまう人もいるかもしれません。そういうときは、仲の良い同僚を誘って雑談をしてみてはいかがでしょう? 思わぬアイデアが生まれるかもしれません。
リモートワークは善か悪か
河原で会議をやるような編集部なので、リモートワークに関しても独自の見解があるのではないか。そう思った私は、林さんにリモートワークについて聞いてみました。
林さん:「メンバー全員がリモートワークをしてSlack(チャットツールの1つ。似たようなツールに「チャットワーク」がある)だけのやりとりになると、コミュニケーションが少なくなるのはもちろんですが、もう一つ致命的なことがあります。それは、リモートワークによって、その人が『言われたことだけしかしなくなるのではないか』ということです。チャット上だと、『もっとこうしたほうがいいんじゃないか』といった改善が生まれにくいですよね。ですから、たとえ何もやることがなくても、雑談するために会社に出社するようにしています」
チャットツールなど、便利なツールが生まれた一方で、直接的なコミュニケーションが不足し、上記のような弊害も生まれてしまう。さすが、早くからリモートワークを実践している林編集長ならではの意見だと感じました。
デイリーポータルZ編集部は“アイデア・ファースト”
デイリーポータルZ編集部は、「面白いコンテンツを発信すること」を最優先としている印象を受けました。その目的のためには手段を選ばず、河原でノートパソコンを持って会議することも厭わず、コンテンツを作り続けているのです。いわば“アイデア・ファースト”とも言える同編集部には、アイデア創出のためのノウハウがしっかりと蓄積されていました。それが「見えない資産」となり、メディアを支えているのですね。
デイリーポータルZ編集部の皆さん、これからも笑いに溢れるコンテンツを楽しみにしております!