脱炭素化の観点から見る機密文書廃棄。社内でできることから
日本政府は2021年4月、2030年までの温室効果ガス排出量削減目標を2013年度比46%にすることを公表しました。先立って、2020年10月には2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにするというコミットメントをすでに発表しています。
政府の動きに呼応するように、国内企業への脱炭素化に向けた目標や具体的活動が本格化しました。今や脱炭素社会への移行をリスク管理の側面だけで捉えるのではなく、ビジネス機会として捉えられようとしています。
これまで自社内でできる排出削減策があると言われ続けてきました。紙の削減や電気・水の節約などです。もうこれらの取り組みにおける削減余地は少なく、いわば「ぞうきんを絞り切った状態」に直面している企業も多いようです。本記事では、そんな企業に向けて、次の一手として実施できる取り組み事項をまとめています。
ペーパーレス化は紙削減の王道
まずはペーパーレス化。紙削減の王道の手段としてよく提示されます。ペーパーレス化により電気利用量は若干増えるかもしれませんが、紙削減によるCO2排出量が抑えられるため、全体のCO2排出は抑えられます。当然、ペーパーレス化は、コスト削減やバックアップ、(運用を整えると)セキュリティ向上、検索性の向上などによる生産性向上が図れることなどメリットが多くあります。会議のためだけに大量の資料を印刷することを避けようと、ペーパーレス会議を普及させようという声も叫ばれて久しいのではないでしょうか。昨今ではリモートワークの普及により、いっそうこの傾向が進んだものと考えられています。
そんなペーパーレス化は、翻ってデメリットもあります。例えば、資料が見づらく、メモができず、目が疲労してしまう、といったことなどです。また、契約書などでは紙で保管しなければならないものも存在することから、紙利用を全廃するということは企業として至難の業であるかもしれません。さらには、ペーパーレス化には社内のシステムを一新・更新する必要もあり、設備投資に要するコストにおいて高いハードルが待ち受けています。
そこで重要になってくるのが、紙ロスの削減・再利用・リサイクルという観点です。
紙ロス削減
印刷時にうっかり無駄なもう1枚を印刷してしまった経験はないでしょうか。例えば、1枚に収まるのに、ほとんど真っ白な2枚目を印刷してしまったといったことなどです。あるいは校正ミスなどで何度も印刷をしてしまうこともあるかもしれません。例えば印刷プレビューを再確認するなど、こういったロスをまずは意識的に防ごうというのが紙ロス削減のポイントです。
再利用
再利用はすでに実施している企業も多いかもしれません。機密事項ではない内容の紙の裏を使ったり、メモとして使ったりと、紙を再利用するという取り組みです。再利用の促進には社内の強固とした基盤が構築されていなければなりません。例えば、機密情報が含まれていない使用済みの用紙を回収するボックス等の設置や、社内啓発用のポスター、またそもそもなぜ再利用をする必要があるかといった目的の共有などが挙げられます。
機密文書のリサイクル
上記の取り組みを前提としてまだできることはあります。紙のリサイクルです。日本の古紙回収率と利用率はそれぞれ81.3%と65%(RISI Annual Reviewより)で、世界でも高いレベルにあります。通常多くの企業は古紙をリサイクルしているでしょう。ただ、機密廃棄文書に限っては、そのままシュレッダー行きとなり、その紙くずは結果的に燃やされることが少なくありません。昨今の情報セキュリティ意識に高まりから、シュレッダーを頻繁に利用することも多くなっていますが、リサイクルをするにはまだ至っていないことが多いと言えます。
三菱商事ケミカルの事例
全社的な目標に対する活動の一環として、機密処理された紙をリサイクルする取り組みを行っている三菱商事ケミカル株式会社の事例を紹介します。
三菱商事の化学品グループから独立し1987年に設立した三菱商事ケミカル株式会社。同社は環境への取り組みを企業行動方針として掲げ、ISO14001を取得・運用しています。その一環として、毎年紙の削減目標量を掲げて取り組んでいましたが、従業員が増えていることもあり限界があることを認識。そこで、切り口を変え、紙の削減ではなく「廃棄する紙の再利用」へと舵を切りました。そこで、日本パープルの機密文書回収サービスである「保護(まもる)くん」を導入。その導入効果を数字で示すため、「紙の使用枚数=実際に出力した紙の枚数−再生紙になった紙の枚数(A4用紙で算出)」と定義しました。
同社は導入に際し、1年間で使用する紙の枚数を、182,377枚以下にするという目標を掲げました。結果、1年間の使用枚数は149,464枚。目標値の約82%と、目標よりも少ない枚数に抑えることができ、大きな効果を得られたようです。ホッチキスやクリップでとめられた状態で廃棄ができるので、気軽に取り組めたのが要因だと担当者は分析しています。
同社へのインタビュー記事はこちらからご覧いただけます。
保護くんのリサイクル効果
では、この「保護(まもる)くん」のリサイクル効果はどの程度のものでしょうか。保護くんを含む日本パープルが提供する機密抹消処理サービスでは、特殊破砕機で紙に含まれる繊維をリサイクルに適した長さを保ちながら破砕されていきます。その後、風力選別機で不純物と紙資源に分別。再生紙としてリサイクルされます。
実績ベースでは、10年間の累積で約18,000トンの二酸化炭素排出が抑制できたと同社は公表しています。また、森林伐採抑止量や二酸化炭素排出抑止量の目安を記載した書類を、抹消処理証明書と合わせて発行しているため、エビデンスでもって削減量の見える化ができます。結果として、紙を再び資源として循環させることができるため、企業のサステナビリティ担当者などから高い評価を得ているようです。
社内でできる脱炭素活動
以上、社内でもできる脱炭素施策の一つである機密文書の廃棄のあり方を見てきました。脱炭素に貢献する紙のリサイクルにおいて重要なことは、紙の発生・利用から廃棄までの全段階で取り組むことです。まずは発生時への取り組みはどうか、利用時には再利用を含めた方法はないかなど、全方位で考えていかなければ、さらなる削減は望めません。今回見てきた廃棄された機密文書のリサイクルは廃棄段階でのアプローチですが、まだ取り組んでいない企業も多くいることでしょう。脱炭素の観点と両立できる機密文書管理のあり方を今一度考えてみることが望まれます。