従業員代表(労働者代表)とは?適切に選出して労使協定を締結


大企業では、労働組合が組織されていることが多いため、労使協定を締結する際は経営者と労働組合が行います。しかし、日本においては全企業の内、中小企業が9割以上を占めているといわれています。中小企業では、そもそも労働組合がない場合が多く、別の手段で労使協定を締結しなければなりません。その手段が「従業員代表制」です。

今回は従業員代表の必要性や選出者の条件、選出をする際のポイントを解説します。

従業員代表とは。労働組合がない企業が協定を結ぶには必須の制度

フレックスタイム制や時間外労働・休日労働(いわゆる36協定)などに関する協定を労使協定といいます。労使協定を締結するにあたって、従業員の過半数で組織する労働組合がない事業所は、従業員の過半数を代表する者を「従業員代表」として協定を締結することが労働基準法で定められているのです。労使協定は事業所ごとに締結されるため、従業員代表も事業所ごとに選出する必要があります。

また就業規則を作成・変更する際にも、従業員代表の意見を求め、その結果を書面にして届け出なければなりません。この制度が「従業員代表制」です。従業員代表は「労働者代表」ともいわれています。

なぜ従業員代表制が必要なのでしょうか。時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を例にして解説します。

労働基準法上では、1日8時間・週40時間が法定労働時間の上限に定められています。しかし、いついかなる場合もこの上限を超えてはならないとすると、業務上の必要性に対応できなかったり、従業員の意向に反する場合があります。現場の労使の判断を尊重する趣旨で、従業員代表との労使協定による労働時間の延長が認められるのです。

従業員代表は公正な方法で選出


誰でも従業員代表として選出できるわけではなく、2つの条件を満たさなければなりません。

1.労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者でないこと

「管理監督者」は明確に定義されていませんが、一般的には「経営者と一体的な立場において労働条件の決定やその他の労務管理を遂行する人」を指します。たとえば、強い人事権を持つ部長や工場長などは従業員代表になれません。一方で、部長や工場長といった肩書きが与えられていたとしても、部下の採用や配置、賃金、その他労働条件の決定などを行う権限を持っておらず、その結果に対する責任も担っていない場合は管理監督者に該当せず、従業員代表になれます。

なお「管理職」と「管理監督者」は必ずしも一致しません。労働基準法上においては使用者が従業員に対して守らなければならない労働時間、休憩、休日についての規則が定められています。しかし、管理監督者にこれらの規則を適用する義務はないのです。社内で管理職とされている人に規則を適用する義務がある場合、管理監督者ではありません。

2.使用者の意向に基づき選出された者でないこと

協定の締結や就業規則への意見等、従業員代表の選任を明らかにしたうえで、投票や挙手といった民主的な方法での選出が必要になります。事業所の過半数の従業員が従業員代表の候補者を支持していると認められなければならないのです。

従業員代表の立候補者を募る場合、従業員代表になるにつき、不利益となる扱いはしないことも併せて説明すると立候補を検討してもらいやすくなります。

従業員代表の選出方法は、従業員同士の話し合いや持ち回りの決議で決定しても問題はありません。従業員の過半数が代表となる人物を支持していることが明確になるような手続きを踏んでいるかどうかという点が重要です。

従業員代表を選出する際は客観的に適切な手続きを

従業員代表の選出方法として投票、挙手を挙げしましたが、実際に行う際に気をつけるポイントが「手続き」です。

まず、従業員代表の選出は労使締結のための代表の選出であることを明確にした上で行われなければなりません。一定の役職者や親睦会・懇親会の幹事などと従業員代表が同じであること自体は問題ありませんが、それとは別に労務協定締結のための代表を選出する手続きを行う必要があります。

よくありがちなケースが、数年勤めているベテラン従業員をとりあえず従業員代表にしてしまう場合です。この方法では、従業員代表が従業員の過半数によって選ばれていることが明確ではありません。

労働基準監督署の査察が入ると、経営者は適切な手続きを踏んでいるか確認されます。また、従業員代表の選出方法に問題があり、労使協定を適切に結んでいなかった場合、経営者からの指示には応じないと主張されることもあり得ます。こういったトラブルを防ぐためにも、適切な手続きを取り、適法性を客観的に示しましょう。

労働組合の組織率が下がる中、従業員代表の重要性は高まっている

アメリカやイギリスなどの諸外国では労働組合の組織率は低下の一途を辿っています。特にドイツでは1995年に約30%もあった組織率が2016年には半分の約15%まで減少しているのです。

参考:『諸外国の労働組合組織率の動向』独立行政法人労働政策研究・研修機構

日本においても同様に労働組合の組織率は低下しており、中小企業やベンチャー企業では、従業員代表の果たす役割が大きくなっています。働き方改革によって従業員の立場が見直される中、今後新たな制度に関する労使協定を締結する機会は増加するでしょう。健全な企業組織を実現するために、従業員代表について十分理解し、適切な手続きで選出しましょう。