ジョブリターン制度で人材の確保を|事例や助成金も解説
そこで注目されているのが、ジョブリターン制度です。一度退職した社員を再雇用する制度で、企業と社員の双方にとってメリットがあります。この記事では、ジョブリターン制度の概要やメリット・デメリット、導入事例について詳しく解説します。
ジョブリターン制度とは
ジョブリターン制度とは、育児や介護、パートナーの転勤といった理由で退職した社員を、本人からの希望がある場合に再雇用するシステムです。少子高齢化による労働力不足などの影響もあり、人材確保に苦労している企業も多く存在しています。2020年1月における帝国データバンクの調査によると、49.5%の企業が「正社員が不足している」と回答しました。約半数もの企業が人材不足を感じているのです。[注1]
そこで、新卒社員や中途社員の採用と並行して、ジョブリターン制度を取り入れて一度退職した社員を呼び戻す企業も増えてきました。育児や介護が落ち着いたためもう一度働きたい、転職したものの新しい会社でやりがいを感じられなかった、などの理由で再雇用を考える元社員も多いでしょう。ジョブリターン制度は、企業にとっても社員にとってもメリットがあります。
ジョブリターン制度のメリットとデメリット
ジョブリターン制度の導入には、さまざまなメリット・デメリットがあります。順番に詳しく見ていきましょう。
ジョブリターン制度のメリット
ジョブリターン制度の導入で得られるメリットのひとつは、採用と教育のコスト削減です。新入社員とは異なり、元社員であれば働いた経験があるため、ゼロから教育する必要はありません。
離職期間中に変わった部分があったとしても、会社の理念や部署の方針など、根幹の部分を教える必要はないため教育コストを大きく削減できるでしょう。経費精算書の作成方法や各部署の位置、備品の保管場所など、意外と覚えるのに苦労する内容もほとんど教える必要がないため、スムーズに職場に馴染んでもらえます。
他社で習得したスキルを活かしてもらえるのも、ジョブリターン制度のメリットです。仕事の進め方や業務効率化のテクニック、導入しているシステムは、企業によって大きく異なります。一度転職した後に再雇用した社員であれば、他社で習得した能力やスキルを活かしてくれる、新たな業務効率化システムの導入を提案してくれる、といった活躍も期待できるでしょう。継続勤務している社員にとっても大きな刺激となり、社内の活性化にもつながります。
ジョブリターン制度のデメリット
一方、ジョブリターン制度にはデメリットもあります。
既存社員のモチベーション低下や社内の雰囲気悪化は、大きなデメリットのひとつです。例えば、一度退職したにも関わらず再雇用されたうえ、以前よりも待遇が上がっている場合、継続して働いている社員は不満を感じてしまうでしょう。
社内のモチベーションが低下しないよう、資格や勤続年数、離職年数に応じて待遇を明確に設定しておくなど、誰もが納得できるルール作りが重要です。
ジョブリターン制度を導入している企業の最新事例
ここでは、ジョブリターン制度を導入している企業の事例を2つ紹介します。制度の導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
1.「リ・メイジ制度」を導入した明治
株式会社明治は、2020年4月1日付採用から、「リ・メイジ制度」という名称で一度退職した社員を再雇用する制度を導入しました。この名称には、「リトライ」や「リスタート」という意味が込められており、退職者も会社も継続して成長していくという意思を表しています。
退職した後に他社や家庭生活を通して得た知識や経験を活かしてもらい、社内の活性化を目指しているのです。再雇用にあたっては、3年以上勤務した正規従業員という条件があります。[注2]
2.退職理由を問わない山形銀行
山形銀行もジョブリターン制度を導入して、優秀な人材の再雇用を進めています。勤続年数が3年以上、退職後7年以内という条件はありますが、退職理由は問わないのが特徴です。育児や介護といった理由だけでなく、キャリアアップを目的として退職した社員についても、再雇用の対象としています。[注3]
ジョブリターン制度の名称や内容は、企業によって異なります。たとえば、森永乳業株式会社では「リターンジョブ制度」という名称で、勤続年数3年以上であった社員を対象として、退職理由に関わらず再雇用を進めています。
また、トヨタ自動車株式会社は、2005年から「プロキャリア・カムバック制度」を導入しました。勤続年数3年以上で1年以上専門職に就いた経験がある人に限定されており、退職理由にも制限がありますが、人材確保のための制度として大きな役割を果たしています。
助成金も活用してジョブリターン制度を導入
ジョブリターン制度は、大企業だけではなく、中小企業にとっても効果的な人材確保の方法です。
ジョブリターン制度の導入を支援している自治体もあるため、助成金などをうまく活用して導入を進めましょう。たとえば、東京都ではジョブリターン制度を整備する中小企業を対象として、1社あたり20万円の助成金を支給しています。[注4]
制度の導入コストも削減したい人は、ぜひ各自治体の助成金を利用しましょう。
[注1]株式会社 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2020年1 月)」
[注2]株式会社 明治「広がるダイバーシティへの取り組み 退職後も再就職可能な「リ・メイジ制度」を導入 2020年4月1日付採用より」
[注3]山形銀行「ジョブリターン制度情報」
[注4]東京都TOKYOはたらくネット「育児・介護からのジョブリターン制度整備奨励金」