2017年3月21日コンプライアンス
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労働問題、あなたの会社は大丈夫?“不当な”残業になる原因を弁護士に聞いてみた

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「働き方改革」という言葉が、盛んに叫ばれるようになった現代。
企業の残業問題が浮き彫りになるケースが増えてきました。

一度悪しき企業体質が明らかにされると、企業の評判は失墜し、大きな損害を被ることになります。

従業員の労働を管理する立場の皆さん。このようなニュースを見て、「まさか、自分の企業でこんな問題が起こることはないだろう」などと思っていませんか。実は、皆さんの企業でも起こり得る問題なのです。

今回は、企業法務関連の事例を多く扱ってきた、弁護士・神尾尊礼さんに、“不当な”残業だと見なされる企業がしていることや、実際に問題が起きた際に企業がとるべき対応を伺いまいした。

“不当な”残業だと見なされる企業がしている3つのこと

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まずは、残業が問題になってしまう企業の特徴を紹介します。

労働基準法で定められた就業時間を超えて働く労働者に対して、十分な残業代を出していないケースが多いのが最近の傾向。残業が問題となるケースとしてよくあるのは、次の3パターンです。

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1.正確な実労働時間を把握していない(悪質な場合にはあえて把握しない)場合

最初のケースは、「正確な実労働時間を把握していない」というものです。

労働時間を管理する仕組みがないのはもっての外ですが、たとえその仕組みがあっても、実際に管理が機能している企業は少ないのが現状。

定時になった時点でタイムカードを押して退勤したことにしたり、残業を共有パソコンでさせて記録が残らないようにしたり、悪質なケースがまかり通っていることが多いのです。

このようなケースは、勤怠管理の方法に問題があるので、勤怠管理のあり方について、今一度考えなおしてみてはいかがでしょうか。

2.事実上拘束しているのに、労働時間とは認めていない場合

続いては、「事実上拘束しているのに、労働時間とは認めていない」場合です。

業務時間外に準備作業をやったり、仕事を自宅に持ち帰ったりすることが該当します。

最近よく目にするこの残業スタイルは、「仕事が一部の人に集中してしまっている」「持ち帰りが常態化し、上司が何も言わない」といった、労働環境(企業風土)に原因がある場合が多いもの。

仕事の分配が適切になっているかどうか、残業を奨励する雰囲気が流れていないかどうかなどを、確認するようにしましょう。

3.固定の残業代をあらかじめ決めて手当てとして支払っている場合

最後は、“○○手当て”というように「固定の残業代をあらかじめ決めて手当として支払っている」場合です。

このケースでグレーな領域になりやすいのが、「みなし残業」です。

みなし残業とは、月に一定時間残業すると仮定し、あらかじめ給与に一定時間分の報酬を加えているもの。このみなし残業代を理由に、従業員に不当に残業をさせているケースが多いのです。

月の所定残業限度時間を超える残業をしている企業は、そもそも労働契約書に不備があったり、実際の残業時間と比較して支払い金額が大きく不足していたりするので、実態を調査する必要があります。

以上3つのケースは、実際に問題になっている例が非常に多いので、該当する企業は早急に対策を講じるようにしましょう。

マスコミ問題にも発展!?残業問題は企業にとって致命傷になりかねない

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実際に労働問題に発展したら、どのようなことが起こるのでしょうか。順を追って説明していきます。

■証拠保全
最初に、労働者が「証拠保全」を行います。

裁判などで使う証拠をあらかじめ確保する制度で、突然裁判所の人が会社に来て、タイムカードなどを写真に撮ったりプリントアウトしたりします。

証拠保全は基本的に断ることができません。平日昼間に会議室などを貸し切り、企業の担当者を拘束して行うケースが多いので、大きな負担がかかります。

■労働審判/訴訟
続いて、労働者は「労働審判/訴訟」を起こします。違法性が認められれば、足りない残業代を遡って支払わされる上に、本来払うはずだったお金を支払っていなかったことによる「遅延損害金」も請求されることになります。

※労働審判とは
労働者と事業主との間に発生した問題を、労働審判官1名と労働審判員2名で審議する裁判所の手続。迅速で適正な解決を図ることを目的としている。

遅延損害金は労働者の退職前であれば年6%、退職後であれば年14.6%の金利がかかるので、企業にとっては大きな痛手。また、訴訟の場合は、悪質なケースでは付加金と呼ばれるものが追加され、さらに倍近くの額を支払わなければならない場合もあります。

■問題が大きくなれば、マスコミ対応も
問題が大きくなれば、これら法律問題とは別に「マスコミ対応」が必要な場合も。「労働者に厳しい」というイメージが世間に定着してしまうことは、企業にとって致命傷になりかねないでしょう。

引くか闘うか。それは社長の経営判断

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労働問題が万が一起こってしまった場合、弁護士は法的な観点からアドバイスをしますが、最終的な決断は社長の経営判断に委ねられます。その際に、企業側は次の観点から決断をすることが重要になってきます。

「企業ブランドや企業イメージから見て、どう動くべきか」

法的に企業側の主張が通っても、問題の解決が長引いて大きくなったことによって、企業のブランドイメージが損なわれてしまった例は当然あります。

残業代を請求されたときに、企業イメージを重視し、早期解決を目指して妥協していくのか。それとも、労働者に非があるとして争うのか。法的な議論を突き詰める前に、企業イメージという観点からどのような経営判断を下すべきか考えるのは、企業を長く存続させていくためにもとても重要なことです。

訴訟になった場合のコストなども考慮に入れながら弁護士と妥協点を探し、最適だと思われる決断をとるようにしましょう。

残業対策→リスクヘッジ+イメージアップ

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“不当な残業”と見なされてしまう企業の特徴や、労働問題がもし起きてしまったときの流れを中心にお話を伺いました。

テレビや新聞などのメディアで労働問題が多く取り上げられることからも分かるように、今、企業の“働きやすさ”について、世の関心が高まっています。

このタイミングで対策をきちんとすることは、問題が起こるリスクを回避できるようになるだけでなく、「従業員に優しい会社」という良いイメージを与えることができるのです。まずは皆さんの企業で、労働管理がどのようになっているのか、実態調査から始めてみてはいかがでしょうか。

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監修:神尾尊礼(かみおたかひろ)
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。

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