メンタリングで若手の育成・定着を!目的や注意点、コーチングとの違いなど
優秀な人材を獲得できたと喜んだのもつかの間、半年も経たないうちに退職届を受理する・・・終わりの見えない採用活動にお悩みの人事部は多いでしょう。近年、転職によってキャリアアップを図る人材は増加傾向にあり、「コロナ禍が落ち着いたら転職活動を」と考えている人も決して少なくないはずです。
そんななか、従業員の育成・定着を狙って導入する企業が増えているのがメンタリング(メンタリング制度・メンター制度)です。今回は、メンタリングの意味や目的のほか、コーチングとの共通点・違いなどについて解説していきます。
メンタリングとは?意味と目的
メンタリングとは、マンツーマンの対話をベースにした人材育成手法です。一般的には、「メンター」と呼ばれる経験豊かな社員と、「メンティ」と呼ばれる若手社員とが定期的・継続的な対話をおこないながら、メンティの自発的な成長を促していきます。
メンタリングはアメリカが発祥と言われており、もともとは非行少年少女の更生支援に用いられていた手法でした。近年になって、企業における人材育成にも役立つことが注目されはじめ、日本でも「メンタリング制度」「メンター制度」といった呼称で導入する企業が増えています。
メンタリングの目的
メンタリングの目的は、若手社員の職務能力向上やキャリア開発を支援するとともに、人間的成長を促すことにあります。企業全体としては、若手社員の定着促進や女性社員の活躍推進のためにメンタリングが活用されることが多いです。
メンタリングの特徴
●自発的な成長を促す
メンタリングは、上司が部下に対して指導・指示するといった従来の人材育成の形をとりません。対話のなかから若手社員に気づきや学びを与え、自発的な成長を促していくという考え方が根底にあります。それゆえ、社内での役職・立場というよりは、お互いの信頼関係をベースにしておこなわれるのがメンタリングの特徴だと言えます。
●キャリア開発だけにとどまらない
メンタリングにおいて、メンターは仕事上の専門知識やスキルを活かしたアドバイスもおこないますが、仕事とは関係のないプライベートの悩み相談も含めて幅広い支援をおこないます。ときに社会人としての心構えを示したり、ときに自身の経験談を語ったりして、メンティに影響を与えていきます。単純にキャリア開発のためだけでなく、人間的な成長につながる支援をおこなうのがメンタリングの一つの特徴だと言えるでしょう。
メンタリングとコーチングの共通点・違い
人材育成の方法論としては、メンタリング以外にも「コーチング」という手法があります。コーチングとは、問いかけをベースとした対話によって対象者(相談者・クライアント)の力を最大限に発揮させ、自己実現や目標達成をサポートするコミュニケーション技術のことです。
メンタリングとコーチングの共通点
●マンツーマンであること
集団研修などと異なり、メンタリングもコーチングもマンツーマンでおこなう点は共通しています。対象者1名に対して担当者1名が付いてサポートしていきます。
●対話をベースに自発的な成長を促すこと
メンタリングもコーチングも、従来の人材育成のように指導者が一方的に指示・命令をするスタイルではありません。対話によって気づきや学びを与え、自発的な考え・行動を引き出し、問題解決や目標達成へと導いていきます。
メンタリングとコーチングの違い
●目的や対象者が違う
コーチングは、ビジネス上の目標達成やプロジェクトの成功など、具体的なゴールを設定して短期的に取り組むことが多いのが特徴です。一方、メンタリングは仕事やキャリアパスだけでなく、対象者の人生そのものを長期的に支援していきます。このような目的の違いから、メンタリングは一般的に新入社員などの若手を対象にすることがほとんどですが、コーチングはマネージャーや経営者が対象になるケースが多く見られます。
●行動を導くか、考えを導くかが違う
コーチングは「doing(行動)」を導き、メンタリングは「being(あり方)」を導く、といった側面が強いと言われます。コーチングは、特定の目標達成や現状の課題解決のために必要な具体的行動(何をすべきか)を引き出すことに注力します。一方で、メンタリングはどちらかと言えば、行動よりも考え方や姿勢(どうあるべきか)を導くことに重きを置くのが特徴です。
メンタリングを人材育成に活用する際の注意点
企業が人材育成・定着のためにメンタリングを導入する際は、以下の点に注意する必要があります。
双方がメンタリングの本質を理解する
メンタリングは、メンターとメンティの双方がその本質や目的を理解したうえで取り組まなければいけません。目的意識が曖昧なまま取り組んでも、効果が得られることはありません。メンタリング制度・メンター制度が当事者たちの希望とは関係なく導入される場合はなおさら、事前にメンタリングの意義をしっかりと理解しておくことが重要です。
特に、「メンティの自発的な成長を支援する」という狙いを認識していないと、メンターは指導・指示・命令をしてしまいがちです。「こうするのがいい」と直接的なアクションを命じたり、「こうすべきだ」と自分のやり方を押し付けたりするのはメンタリングの本質から外れ、メンティの自立にもつながりません。
定期的に振り返る
メンタリングを開始したら、定期的に振り返り、メンティに対してフィードバックをおこなうことが重要です。ともすると、メンターはメンティの課題を指摘することに終始しがちですが、できるだけメンティのプラスの変化にフォーカスして、建設的なフィードバックをおこなうようにしましょう。
また、メンタリングはメンターとメンティ双方の信頼関係がなければ、回数を重ねても効果は得られません。逆に、回数を重ねたからといって信頼関係が築けるわけでもありません。「信頼関係を築くのが難しい」「相性が悪い」といったケースでは、そのままメンタリングを続けても時間の無駄。新たなペアを模索するなどの判断が必要です。
「師」の存在こそが若手の成長を後押しする
「メンター」という言葉には、「師匠」や「信頼のおける助言者」といった意味があります。メンタリングは、若手社員の身近に何でも気軽に相談できる「師」を置いてあげることからはじまります。メンタリングがうまく機能すれば、メンティは師に影響を受けながら自律的にキャリアを切り開いていくようになるはずです。
若手人材の定着を図りたい企業や、若手人材に物足りなさを感じている企業は、メンタリング制度(メンター制度)を導入してみてはいかがでしょうか。