パラレルキャリアとは? 企業にとってのメリット・デメリットを紹介!
かつては1つの会社で定年まで勤めるのが一般的でしたが、最近では副業や兼業を行うなど、多様な働き方をする人が増えてきました。そうしたなかで、若い世代を中心に注目を集めているのが「パラレルキャリア」という考え方です。もともとは経営学者のピーター・ドラッカー氏が著書で提唱した概念ですが、現在では新たな働き方の方法として多くの人が参考にしています。
そこで今回は、パラレルキャリアとは何か、実践とどのようなメリットがあるのか、推進するうえでの注意点は何か、について詳しく解説しましょう。
パラレルキャリアとは? 複数の経歴を同時に磨いていくこと
英語の「パラレル(parallel)」には「平行」、「並行」という意味があり、パラレルキャリアとは、複数の仕事を持ち、各経歴を並行して磨いていくことです。また、自分が取り組んでいる複数の仕事に本業と同様の気持ちで向き合っていくという意味で、「副業」ではなく「複業」と言い表されることもあります。以下では、なぜパラレルキャリアが注目されるようになったのか、「副業」とはどう違うのか、という点について説明しましょう。
パラレルキャリアが注目されるようになった背景
日本でパラレルキャリアが注目されるようになった理由の1つが、終身雇用や年功序列といった日本型雇用システムに変化が生じた点です。かつては新卒から定年まで1つの企業で働き、キャリアアップも企業内でのみ図ることが当たり前でした。しかし、現在では日本社会で価値観が変貌し、労働者1人ひとりが自らのライフスタイルを考えてキャリア設計する時代が到来しています。就労者のキャリアに対する考え方が、高度成長期~20世紀末までとは大きく変わってきたといえるでしょう。
さらに、企業においても欧米的な価値観が広まるなかでリストラが容赦なく断行され、かつてのように従業員を定年まで確実に面倒みる風潮が失われつつあります。働く側としてはいつどうなるかわからないという職場への不信感から、複数のキャリアを保険として確保したいと考えるのです。
副業との違いとは? パラレルキャリアは本業を複数持つこと
働き方改革の一環で2018年1月から副業が解禁されたこともあり、各企業で副業を認めるケースが増えてきました。しかし、こうした副業は、パラレルキャリアとは大きく違います。副業とは、本業以外に仕事を行うことです。本業が中心にあって、その収入を補完することを目的に行うのが副業といえます。
一方、パラレルキャリアでは、並行に行っている仕事にメイン・サブの区別はありません。つまり、行っている仕事すべてが本業であり、仕事間に優先順位はないという考え方です。そのためパラレルキャリアは副業ではなく「複業」と表記され、両者は厳密に区別されています。
パラレルキャリアのメリットとは【企業側・従業員側】
では、パラレルキャリアの普及にはどのようなメリットがあるのでしょうか。企業にとって、従業員にとってそれぞれ利点があるので、以下で紹介しましょう。
<企業側>人材育成の経費削減、離職防止
企業側にとっては、従業員がパラレルキャリアを積むことで、自社で身につくスキル・経験以外の能力をもち、力をフィードバックしてもらえるというメリットがあります。従業員は複数の企業で多様な業務をこなすなかで、自ら日々成長していくので、見方によっては、企業側がコストをかけることなく、人材は育成されていくわけです。こうした従業員の質向上は、企業にとっては大きな利点といえるでしょう。
また、パラレルキャリアの構築を推奨することで、優秀な人材の離職を防ぎ、従業員のモチベーションを高める効果も期待できます。無理に自社に縛りつけて忠誠を求めると、複業を考えている従業員が退職する恐れがあるため、パラレルキャリアを認めて労働力を確保する方が企業にとっては得策なのです。
<従業員側>収入アップや転職せずにキャリア形成が可能
働く側にとってパラレルキャリアを行う最大のメリットは、ズバリ収入アップです。副業のようなアルバイト・パートなどとは違って、正当な仕事として本格的に業務に取り組むわけですから、忙しい反面、総収入は向上します。
さらに、未経験やスキルが十分でない仕事に挑戦することで、転職しないでキャリアアップを図れることも挙げられます。転職すると、職場環境・人間関係が大きく変わり、変化に適合できるかは、実際に就労してみなければわかりません。しかしパラレルキャリアであれば、どの企業も退職せずに並行で常務できるので、転職に比べるとリスクが少ないのです。
パラレルキャリア推進の注意点【企業側・従業員側】
一方で、パラレルキャリアを推進することには注意点もあります。以下では、企業側、従業員側双方において気を付けるべき事項を解説します。
<企業側>就業規則の改正や情報漏えいへの対策
企業側にとっての注意事項としては、パラレルキャリアを認めるように就業規則を改正する必要があり、手間がかかるという点を挙げられるでしょう。もうひとつは、情報漏えいへの備えです。従業員が複数の企業で仕事をするのは、他社のノウハウを吸収して自社で活用してもらえる反面、自社で得たノウハウを他社で使われることと表裏一体です。とくに、自社存立の核となるような知識・スキルが他社に流出してしまうと、経営上、大きなリスクを追います。こうした前提を念頭に、パラレルキャリアの従業員とは厳重な守秘義務契約を交わすなどの手を打ちましょう。さらに、従業員が複数の企業で働くとそれだけ忙しさが増して心身に疲労が溜まってくるため、自社で働く際のパフォーマンスが低下する恐れもあります。ひいては、企業全体の生産性低下につながらないよう「健康経営」を準備しましょう。
健康経営の詳しい説明はこちら:健康経営とは?メリットや取り組み事例、ウェルビーイングの意味を含め解説‼︎
<従業員側>スケジュール管理と健康管理
従業員側がパラレルキャリアを実践する際に注意すべことは、スケジュール管理と健康管理に尽きます。本業としての業務を複数こなすわけですから、労働条件が同じだと、当然のことながら実質的な労働時間は急増します。そのため、各仕事への時間配分を慎重に確認しなければ、過労により健康を害する恐れもあるので注意しましょう。あまりに仕事を詰め込み過ぎると、最初のうちは高いモチベーションで乗り越えられますが、慣れない仕事を複数こなしていくうちに心身ともに疲労が蓄積する危険性があります。ストレスもどうしても溜まってくるので、その解消方法についても事前に調べておくことが大切です。
パラレルキャリアの実践にはメリットだけでなく、デメリットへの配慮も必要
1つの会社だけで働き続けるのではなく複数の企業で並行して勤め、自らの知識・スキルを幅広く磨いていくパラレルキャリアという働き方は、社会の価値観が多様化するなかで徐々に広まりつつあります。しかしパラレルキャリアには企業および従業員にとってメリットが多い反面、デメリット・注意事項も多くはらんでいます。実践する場合は、デメリットへの配慮・対策をしっかりと行っておく必要があるでしょう。