本社オフィス撤廃!株式会社ソニックガーデンがたどり着いた「リモートワーク」の完成形
働き方改革の施策のひとつとして取り上げられるリモートワーク。しかし、「コミュニケーションがなくなり、一体感を失いやすい」などデメリットも考えられ、導入を検討しているものの慎重な企業は多いようです。
そこで今回は、トライアンドエラーの末に全社員でリモートワークを実現し、最終的に本社オフィスを撤廃するに至った株式会社ソニックガーデンの事例をご紹介します。
現在の社員数34名のうち、その半数以上が地方在住という同社。一体どのような経緯でリモートワークを導入し、全社員に定着させたのか。導入、運用する上でのポイントを、代表の倉貫義人さんに伺いました。
株式会社ソニックガーデンってどんな会社?
▲代表の倉貫義人さん。社員のために解放している都内のコワーキングスペースにて
WEBシステムやスマートフォンアプリなどを開発する株式会社ソニックガーデンは、「納品のない受託開発」というスローガンを掲げてサービスを展開。事業に欠かせないソフトウエアの企画開発から運用まで行っています。
そのキーワードには、単に開発・納品をして終わるのではなく、時代の変化やニーズに合わせて常に改善とアップデートを加えていくこと、そして、かかりつけの医者のようなパートナーシップで、いつでも気軽に相談できるエンジニアでありたいという思いが込められています。
試行錯誤のなかで見えてきた、リモートワークに必要なこと
ーなぜリモートワークを導入しようと考えたのでしょうか。
実は最初から導入を検討していたのではなく、会社設立時に優秀なエンジニアを採用したいと考えことがきっかけでした。しかしエリアを都内近郊に限定してしまうと人材の奪い合いになるので、「勤務地不問」で募集をかけたことが始まりです。
その反応は上々で、多数の応募がありました。そこで、離れた状態でも仕事ができるのかを試してみようということになり、リモートワークを開始。第1号は、兵庫県の人間でした。
–実際にリモートワークを始めてみて、いかがでしたか。
当初は1人だけがリモートワークだったので、ついつい、その存在を忘れがちに……。オフィスにいれば自然と目に入りますが、いざ打ち合わせをする段階になって、あれ?って(笑)。
対策としていくつかの方法を考えた結果、Skypeをつなぎっぱなしにしてみることに。するといつでも呼びかけられるので、存在感が薄れることもなくなりました。ところが2人、3人とリモートワーカーが増えていくと会話が混線。業務に支障がではじめたので、Skypeを断念してチャットに注力しました。けれど文面だけではやはり存在を感じることができず、他の方法を模索していました。
そうして何年かの試行錯誤を続けているうちにふと、大事なのは「顔が見えること」だと気がつきました。オフィスがある一番のメリットは、立派なビルや快適な設備ではなく、一緒に働いている人の顔が見えることなのだと。
そこで、仕事中にみんなの顔が見えて、気軽に声をかけられるような仕組み、つまり物理的なオフィスの代わりになる場を開発しようと思いました。それが、バーチャルオフィス「Remotty(リモティ)」というツールです。
バーチャルオフィスに「出社」する一体感。仕事の報連相も、何気ない雑談も
▲Remottyログイン画面。上部にメンバーの写真、中央に個人チャット、右側にタイムラインが表示される
— Remottyの仕組みについて教えてください。
まずは「ログイン」という「出社」をします。すると、画面上でみんなの顔を見ることができます。画像は2分以内の静止画なので、居る、居ないが一目瞭然。とはいえ仮想空間に集まっているので、SFのような世界ですが(笑)。
個人個人にチャットが割り当てられているので、誰かとコミュニケーションを取りたい場合はそこに書き込こむことで気軽に話しかけられます。もし込み入った話題になるようなら、テレビ会議への移行も簡単です。
▲テレビ会議の様子
また、チャットへの書き込みは自動でタイムラインに流れるため、「おはようございます!」「誰々さんに連絡してください!」「今日のお昼は?」といった具合に、仕事の話もそれ以外の話題も飛び交っています。ちょうど、オフィスにいるときのざわざわ感、雑談が聞こえてくるイメージです。そうした何気ない会話からアイデアが生まれることも多いでの、話しやすい環境をつくることによって社員同士のチームワークを高めています。
そうやってRemottyを活用していくうちに、在宅勤務の人数もノウハウもだんだんと増えていき、いつの間にかバーチャルオフィスが本当の会社であるような共通認識が生まれてきました。創業から5年、2016年の時点で社員の半数以上が在宅勤務になったため、それまで渋谷にあった本社オフィスを撤廃。完全なリモートワークの体制になりました。
▲物理オフィスの撤廃
自由な働き方・生き方の提案が、採用アップと離職率ダウンに貢献
ーリモートワークのメリットは、どんなところでしょうか。
経営側から見ると、採用に圧倒的に有利です。場所を限定して優秀な人材を獲得することは難しいですが、日本全国ひいては世界に向けて募集をかけることができるので。また、社員は住む場所や生活スタイルの変化に左右されることなく仕事を続けられるため、離職率を下げる効果もあります。会社は人材が重要。採用が増えて、離職が減れば、そのメリットは相当大きいと思います。
個人においても、働き方の選択肢として有意義だと思います。何といっても家族と過ごせる時間が増えるので、お子さんが小さいうちは一緒に過ごしたいという思いも叶えることができます。近年では、スノボ好きの社員が東京から長野に移住してスノボ三昧の生活を送っていますし、海外旅行をしながら仕事をする者も出てきています。
ー一方で、デメリットはありますか。
正直、いまのところ感じていません。確かに、存在感がなくなりがち、雑談がしにくい、一体感が失われるといったことはデメリットとして挙げられますが、私たちはそれをシステムの導入や業務の改善で乗り越えてきました。
たとえば小さなことですが、郵便物をスキャンして共有できる仕組みづくりや、電話転送をテキストでしてもらうアウトソーシングの契約。領収書も昔は手入力でしたが、今はスマホで写真を撮るだけで簡単に管理ができています。
リモートワークをしようというよりも、自分たちの働きやすい環境を考えて業務改善とシステム化をこつこつ続けてきた結果、いつの間にか働き方の変化につながったといえます。
▲ご自身も率先してリモートワークを実践
ーリモートワークを成功させるうえで、大切なことは何でしょうか 。
働く人間の気持ちを考えることだと思います。リモートワークの導入においては、仕組みそのものに目がいきがちですが、大切なのは、一緒に働いているという一体感です。いくら離れているとはいえ、そういった気持ちを持つことができなければ、会社で仲間と働く意味がありません。物理的な設備などはいくらでも代替することができますが、働く人の気持ちだけは、置き換えられませんから。
日々の業務改善とシステム化が、リモートワークの最適な形をつくる
リモートワークの成功について倉貫さんは、業務改善とシステム化を同時に行う「業務ハック」を1つのポイントに挙げてくれました。「納品のない受託開発」にその思いが込められているように、リモートワークもただ導入するだけではなく、日々アップデートしていくことで、それぞれの会社に適した仕組みになっていくそうです。
企業価値を高めることにも、個人の働き方にもメリットがあるリモートワーク。まずは、少人数から。ソニックガーデンさんの事例を参考に、トライしてみてはいかがでしょうか。