テレワークのメリットと導入手順を徹底解説
2019年4月1日から順次施行されている「働き方改革関連法」。従業員の多様な働き方を推進し、労働生産性を上げるための取り組みが各企業で始まっています。しかしなかには、具体的な取り組みの導入手順や効果がわからず、いまだ検討段階の企業も多いのではないでしょうか?
今回は多くの取り組みの中でも、多様な働き方に特化した「テレワーク」について、メリットや導入手順、欠かせないセキュリティ対策について紹介します。導入によるリスクへの対策と共に正しく理解しましょう。
テレワークとは? 3つの種類と概要
テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用した、時間や場所にとらわれない働き方を実現するための取り組みです。テレワークは勤務場所によって以下の3つの働き方に分けられます。それぞれの導入効果や対象の従業員は異なるため、特徴を把握し自社に合ったテレワークの形を検討してください。
在宅勤務
自宅にいながら、パソコンとインターネット、ビジネスチャットなどのコミュニケーションツールを活用した働き方です。従業員の通勤負担を軽減するだけでなく、介護や育児、障がい等の理由により会社への通勤が困難な従業員にとって、プライベートと仕事の両立を助け、ワークライフバランスの実現にもつながります。あらかじめ在宅勤務の制度を整えておけば、自然災害や感染症の流行時にも、業務の継続や早期再開ができます。
モバイルワーク
顧客先や移動中、インターネット環境の整ったカフェなどを就業場所とする働き方です。営業職など頻繁に外出する職種の場合は、わざわざ会社に戻る必要がなくなるため、効率的に業務を進められます。無駄な移動時間の削減、交通料金等のコスト削減にもなります。
施設利用型勤務
サテライトオフィスや、コワーキングスペースなど、勤務先以外の事業所や施設を活用する働き方です。所属する事業所よりも自宅に近い事業所が存在すれば、通勤負担の軽減と移動時間の削減ができます。また企業にとってのメリットとして、都市部に本社がある企業が地方にサテライトオフィスを開設すれば、地方の優秀な人材の獲得、自然に囲まれた環境で働くことによる労働生産性の向上が見込めます。反対に、地方に本社がある企業が都市部に開設すれば、地方では得られない情報の収集や営業活動の拡大にもつながります。
テレワークの目的とメリット
少子高齢化に伴う労働人口の減少から、日本は従業員一人当たりの労働生産性の向上が求められています。そのため政府は従業員の労働生産性を最大限に発揮し、多様な働き方を目的としたテレワークの導入を推進しています。上記の概要でも説明した通り、テレワークはその種類によって業務効率化が図れる対象の従業員が変わってきます。よって、企業はむやみにテレワークを導入するのではなく、導入によって自社の従業員の労働生産性が最も高くなる働き方を検討する必要があるのです。
<出典:総務省「平成30年通信利用動向調査」をもとにグラフを作成>
総務省の「平成30年通信利用動向調査」によれば、テレワークを導入した企業の81.6%が、「非常に効果があった」又は「ある程度効果があった」と答えています。では、具体的にテレワークの導入には、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは企業側と従業員側それぞれのメリットを紹介します。双方のメリットを理解し、適切な導入目的を定めましょう。
企業のメリット
・離職率の低下と定着率の向上
・通勤費などのコスト削減
・労働生産性の向上
育児・介護といった家庭の事情や、障がい等の理由で会社を辞めざるを得なかった従業員の離職率を低下させ、定着率の向上も見込めます。柔軟な働き方により、「働きやすい」といった企業へのイメージが構築されれば、優秀な人材の確保にもつながるでしょう。無駄な通勤費を削減し、従業員の労働生産性向上も期待できます。
従業員のメリット
・仕事への意欲増加と意識改善
・通勤時間の削減
・居住地域の拡大
テレワークによってワークスタイルの多様化が進めば、柔軟な勤務時間の調整が可能になり、時間的・精神的余裕から仕事への意欲が増すでしょう。結果的に仕事とプライベートの両立が容易となり、ワークライフバランスの実現が可能になります。
テレワークの導入手順と課題
テレワークを導入するには、以下のような手順とポイントが考えられます。
<出典:総務省「情報システム担当者向けのテレワーク導入手順書」をもとに図を作成>
テレワークの導入手順
以下、導入手順の具体的な説明になります。すでにテレワークを導入している企業も、自社の導入手順や方法が適切であるか確認してみましょう。
①目的の明確化
まずはテレワーク導入の目的を定めましょう。多様な働き方の推進か、生産性の向上か、企業によって導入の目的は異なるでしょう。しかし重要なのは、企業と従業員の双方にメリットが生まれることです。企業の一方的な導入は、かえって従業員の生産性を下げかねません。よって、テレワークを求める従業員がいない場合、導入自体を再検討する必要があります。
②対象範囲の確定
テレワーク導入には、「対象者」と「対象業務」の選定が欠かせません。全社的に進めるのではなく、効果が期待できそうな部署や業務内容を試験的な導入で把握し、徐々に対象範囲を拡大することで、リスクを最小限に抑えながらテレワークを社内に浸透できます。特に、育児・介護期の従業員や通勤が困難な従業員など、導入によるメリットが大きい従業員を優先して選定するといいでしょう。
③現状把握
ICT環境は整備できているか、導入に伴う制度やルールの構築はできているかなど、テレワーク導入に向けた現状把握と課題の洗い出しを行います。
④実施環境・設備の整備
現状把握の段階で洗い出された課題に対し、不十分な環境の整備やルールの設定をします。
⑤試行実施と効果測定
期間を決め、試験的にテレワークを導入し、効果測定を行います。改めて出てきた課題や問題点を明確にし、確実に対処しましょう。
⑥分析と改善
試験実施と効果測定の結果を導入目的と照らし合わせ、実際に効果があるのかを判断します。また、この時点で従業員のテレワーク導入への可否を把握するために、アンケート調査やヒアリング調査を行いましょう。その結果をもとに、全体の見直しなどを徹底すれば、より精度の高い導入効果が期待できます。
⑦導入
本格的にテレワークの導入を行います。定期的に効果測定やアンケート調査を続け、対象範囲の拡大や従業員にとって最適な働き方を検討し続けることが重要です。
テレワークの課題
テレワークを社内に浸透させ、問題なく運用するためには、以下の2つの課題をクリアする必要があります。特に「人事労務制度の整備」は組織によって適切な対応が変わるため、自社のテレワーク制度に適した解決策を考えましょう。
テレワーカーとの情報共有・コミュニケーション(情報通信システム・周辺機器の整備)
場所や時間にとらわれない働き方の実現には、情報共有ができるICTツールの導入や環境整備が必要です。具体的には、勤務地以外の場所で働く従業員とつながるためのビジネスチャット、Web会議システムなどが挙げられます。またデータの共有・管理には、クラウドストレージなどの導入も検討すべきでしょう。
人事労務制度の整備(勤怠管理と評価制度)
テレワークは社外で従業員が働くため、業務の進捗状況や共有などコミュニケーション不足になりがちです。そのため、テレワーカーが孤立したり、疎外感を生じないように注意しなくてはいけません。また適切な勤怠管理や評価のできる人事労務制度の整備が重要です。他の従業員との均等な評価のためにも、具体的な数値をもとにした目標設定や、クラウド型の勤怠管理システム導入が必要になってきます。
テレワークはセキュリティ対策にも十分注意を!
テレワークは、従業員が業務に関わる企業情報を社外で取り扱うため、データの管理・共有に対し、十分なセキュリティ対策が必要です。ノートPCやタブレットの活用時、インターネットの利用が考えられますが、その際に外部からの不正侵入による攻撃を受けるなど、情報漏洩のリスクが生じます。企業の対策として、カフェなどのフリーWi-Fiの利用禁止やVPNサーバーの構築などが挙げられます。
企業の労働生産性を高めるためのテレワークも、セキュリティ対策が疎かでは情報資産の消失につながります。まずは従業員が利用する情報を把握したうえで、適切な対策やセキュリティーポリシーの構築を心がけましょう。
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テレワークを進めるには、正しい導入手順の理解が鍵
テレワークの導入は、企業だけでなく従業員にとっても多くのメリットがあり、今後より普及して近い将来は一般的な制度になっているでしょう。しかし、導入・運用方法を誤ると情報漏洩のリスクや労働生産性の低下といったトラブルが発生します。ICTツールや勤怠システム導入も必要になるため、本稿で説明した導入手順を意識しながら、導入による効果を最大化させましょう。