迫る年末調整の電子化! メリットと事前準備を把握しよう
毎年、年末から翌年1月10日ごろにかけて、企業の人事労務の負担になるのが「年末調整業務」です。
年末調整の計算に必要な申告書・証明書の管理・チェックや、給与計算ソフトへのデータ入力など、この時期は人事労務にとっての「繁忙期」に当たります。
しかし、2020年10月以降に予定された年末調整業務の電子化により、人事労務の負担軽減が可能になりました。本記事では、年末調整の電子化メリットや、制度改正に向けた準備について解説します。
従来の年末調整手続きは人事労務に負担がかかる
電子化される前の年末調整はとにかく手間がかかり、人事労務部門の負担になっていました。従来の年末調整の手順は大きく次の3つに分けられます。
従業員からの申告
従業員が税務署・金融機関・保険会社などから紙の控除証明書を受け取り、申請書を作成します。
申請書には、給与所得者全員の提出が必要な「扶養控除等(異動)申告書」や、配偶者がいる場合の「配偶者控除等申請書」、住宅ローンを利用した場合の「住宅借入金等特別控除申告書」などがあります。
人事・総務は1人ひとりから申請書類を回収し、チェックしたうえで保管します。
年末調整の計算
こうした申請書をもとに、従業員の給与・賞与の金額を記録した給与台帳と見比べながら、所得から控除する金額を計算します。
年末調整の計算業務が終われば、従業員1人ひとりの源泉徴収票を作成し、12月の年度末までに交付します。
税務署への書類提出
源泉徴収票の作成・交付が終われば、年末調整を行った年度の翌年1月10日(特例事業者は1月20日)までに源泉徴収税を納付します。同時に、源泉徴収税の金額を証明する法定調書を作成し、税務署や市区町村の窓口に提出します。
こうした従来の年末調整の手順は、計算に使う申告書・証明書が紙媒体なうえ、フォーマットが金融機関や保険会社によってバラバラです。
必要書類の保管・集計やチェック業務に手間がかかり、人事労務の負担増を招いていました。給与計算ソフトを導入していても、紙媒体を見ながらデータ入力を手作業で行う必要があり、人事業務効率化のボトルネックとなっていました。
2020年、電子化された場合の年末調整の手順と概要
2020年に年末調整の手続きが電子化され、従来は紙媒体で管理していた申告書や証明書の電子提出・電子保管が認められます。
対象となるのは次の書類です。
今回の制度改正で電子化の対象となるのは、生命保険料控除や地震保険料控除を行うための証明書と、住宅ローン控除を行うための申告書・証明書の2点です。
扶養控除等(異動)申告書や保険料控除申告書は、以前の制度改正で電子化されていたものの、この2点の必要書類が紙媒体であったため、結局書類内容の転記・チェック作業が発生していました。
2020年からの電子化により、年末調整の手順は大きく簡略化します。年末調整の計算に必要なすべての書類は、金融機関や保険会社のWebページか、マイナンバーと紐付けられた政府運営のマイナポータルからXMLファイルで取得できます。
取得した電子データは、国税庁が無償提供する「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」や、民間のクラウドサービスなどを活用し、給与計算システムとシームレスに連携可能です。
年末調整の電子化における2つのメリット
年末調整の電子化は、企業側・従業員側それぞれにメリットがあります。
企業のメリット:事務手続きの簡素化が可能
年末調整の計算に必要な申告書・証明書がすべて電子化されるため、紙ベースでの保管・集計や、手作業でのデータ入力が必要ありません。人事労務部門の負担軽減につながり、その分のリソースを別のコア業務に振り分けられます。
紙媒体の電子化は、企業のペーパーレスを進めるでしょう。
従業員のメリット:申請書・証明書の取得・作成が楽になる
従来の年末調整では、従業員が必要書類を紙媒体で受け取り、手書きで申請書を作成していました。
年末調整の制度改正により、証明書や申請書を電子データで取得できるため、人事労務以外の従業員の負担軽減にもつながります。国税庁の専用ソフトウェアを活用すれば、申請書の作成も簡単になります。
年末調整の電子化に向け、事前準備を徹底しよう!
年末調整の電子化に向けて、企業側・従業員それぞれに必要な準備内容は次の通りです。
企業の準備:新制度に合わせたインフラ整備と周知徹底を
年末調整業務の効率化のため、新制度に合わせたソフトウェアやクラウドサービスを導入しましょう。たとえば、新制度に対応した給与システムなら、電子化された申請書・証明書を活用し、年末調整の計算業務を大幅に簡略化可能です。
また、制度改正にいち早く対応するため、申請書・証明書の取得や、年末調整控除申告書の作成方法について、従業員に周知徹底を行う必要があります。
従業員の準備:専用ソフトウェアの導入やマイナポータルとの連携を
年末調整の必要書類をダウンロードするためには、マイナポータル連携の手続きが必要です。
控除申告書や控除証明書は、金融機関・保険会社のホームページからも取得できますが、マイナポータルなら行政手続きに必要な電子データの一元管理が可能です。また、電子データを使って年末調整申告書を作成するためには、国税庁が2020年10月にリリース予定の「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」を始めとした専用ソフトウェアが必要です。
10月以降の年末調整業務に向けて、企業・従業員それぞれが必要な準備を済ませておきましょう。
目前に迫る年末調整の電子化に向けた事前準備を
年末調整業務の電子化により、電子データで利用できる申告書・証明書の範囲が広がります。今回の制度改正では、年末調整の電子化が「義務化」されるわけではありません。
しかし、申告書・証明書をオンラインでやりとりできれば、人事労務の負担軽減につながります。2020年10月以降の年末調整業務に向けて、給与システムの改修や従業員への周知徹底など、企業としてできることを済ませておきましょう。